第1卦 乾為天(けんいてん)
乾為天は、『易経』六十四卦の筆頭であり、八純卦に属し、六爻すべてが陽爻です。天、純陽、剛健、創始、君主の道を象徴します。核心の要義は 「天行健、君子以自強不息」 (天の運行は健やかであり、君子はこれに倣って自ら努め励んで止まない)であり、開創、進取、尊貴を主とし、最上の吉卦です。「元亨利貞」 の四徳を貫き、物事が萌芽から頂点へ、そして止まるべき時を知るまでの完全な発展サイクルを明らかにしています。
卦象と卦辞
卦象
卦辞
乾:元、亨、利、貞。
解説: 乾卦は天道を象徴し、元始創始、亨通順利、祥和有益、堅守正道という四つの徳行を内包しています。これは物事の発展の全過程を貫き、天道の剛健なる本性の体現です。
爻辞
- 初九: 潜龍、用うる勿れ。
潜龍、用うる勿れ。 解説: 龍が深淵に潜んでいる状態で、この時は行動を起こすのに適していません。物事の初期段階では力がまだ十分でないため、ひたすらエネルギーを蓄積し、適切な時機を待つべきことを喩えています。
- 九二: 田に龍を見る、大人を見るに利し。
田に龍を見る、大人を見るに利し。 解説: 龍が田野に現れ、その鋭気を露わにした状態です。この時は徳と地位、能力を備えた大人物に会い、その助力を得て自らの才能を発揮するのに適しています。
- 九三: 君子終日乾乾、夕べに惕(おそれ)るも厲(あやう)きが若(ごと)し、咎(とが)無し。
君子終日乾乾、夕べに惕(おそれ)るも厲(あやう)きが若(ごと)し、咎(とが)無し。 解説: 君子が一日中勤勉で弛まず精進し、夜になっても危険に直面しているかのように警戒心を保ち、慎重に行動すれば、災いを招くことはありません。
- 九四: 或いは淵に躍る、咎無し。
或いは淵に躍る、咎無し。 解説: 龍が時には水面に躍り出、時には深淵に潜り、進退自在で盲目的に突き進まない状態です。こうすれば災いはありません。重要な局面では時勢を察し、柔軟に選択すべきことを喩えています。
- 九五: 天に飛龍す、大人を見るに利し。
天に飛龍す、大人を見るに利し。 解説: 龍が天空を飛翔し、最も適した位置にある状態です。この時は大人物に会うのに適しており、助力を得られるだけでなく、大志を抱き、抱負を実現することができます。
- 上九: 亢龍(こうりょう)、悔い有り。
亢龍(こうりょう)、悔い有り。 解説: 龍が極めて高いところまで飛び上がり、適切な限度を超えた状態で、最終的には悔いを生じます。物事が頂点に達した後、進退を知らず、独りよがりになれば、必ず過ちを招くことを喩えています。
- 用九: 群龍首無きを見る、吉。
群龍首無きを見る、吉。 解説: 一群の龍に首領がいないのに、かえって調和のとれた秩序ある状態を呈しているのは、吉祥の兆しです。これは天道循環、剛柔相済の至高の境地を体現しており、指導者が独断専行せず、万物がそれぞれの場所を得て共生共栄することを示しています。
核心象義
乾卦は純陽の卦であり、卦徳は剛健で止むことがありません。宇宙天体の永遠の運行を象徴し、人事においては君主、指導者、父親に対応します。剛健、進取、光明正大を主とします。その核心は 「天行健、君子以自強不息」 であり、人は天道に倣い、正道を守り、持続的に精進すべきことを提唱しています。同時に 「亢龍有悔」 を警告し、剛極まれば柔を必要とし、進退を知り、中和を守ることを強調しています。
乾卦の六爻は 「龍」 を喩えとして、物事の発展の六つの段階を完全に示しています。初九は潜蔵して時を待ち、九二は鋭気を初めて露わにし、九三は勤勉で警戒し、九四は進退に度があり、九五は頂点に達して権力を行使し、上九は物極まれば必ず反転します。用九は天道循環、首領無くして和する至高の境地を体現しています。
万物類象
- 卦性: 純卦、陽卦、六爻皆陽
- 五行: 陽金
- 方位: 先天八卦では正南に居し、后天八卦では西北に居す
- 時序: 秋、九・十月の交わり、戌亥の年月の時、五金の年月日時
- 人物: 君主、父、大人、老人、年長者、指導者、有名人、権力者
- 身体: 頭、骨、肺、大腸。身体強健、筋骨の疾患を主る
- 動物: 龍、馬、白鳥、獅子、象
- 器物: 金玉、宝珠、円形の物、冠や鏡、時計、骨董品、高級品、剛硬な物
- 場所: 京都、公堂、楼台、ビル、寺院、皇宮、政府機関、高く乾いた土地
- 人事: 剛健勇武、果断、動多く静少なく、高上で屈せず、開創的な事柄
- 色彩: 大赤色、玄色、金黄色、白色
- 五味: 辛、辣
- 数目: 一、四、九、百、万(先天数、五行数)
古籍原文
卦辞爻辞
乾: 元、亨、利、貞。 初九: 潜龍、勿用。 九二: 見龍在田、利見大人。 九三: 君子終日乾乾、夕惕若厲、無咎。 九四: 或躍在淵、無咎。 九五: 飛龍在天、利見大人。 上九: 亢龍、有悔。 用九: 見群龍無首、吉。
彖伝
《彖》曰:大哉乾元、万物資始、乃統天。雲行雨施、品物流形。大明終始、六位時成、時乘六龍以御天。乾道変化、各正性命。保合太和、乃利貞。首出庶物、万国咸寧。
解説: なんと盛大な乾元の気であろうか!万物は皆これに依って創始化生され、それは天道の運行全体を統貫している。雲気が運行し、雨が降り注ぎ、万物はその滋養を受け、次第に様々な品類を形成し、異なる形態を現す。天道の運行は循環往復して止まず、六爻が代表する六つの時位が順次形成される。それはあたかも六匹の巨龍に乗って時序に順応し、天道を制御するかのようである。天道の変化は自然の法則に従い、万物がそれぞれに適した性命を得て、自らの本性を堅守させ、最高の和諧状態を保つ。これこそが「利貞」の真髄である。天道は万物の上に君臨し、万物の生長を導き、天下万国をみな安寧祥和ならしめる。
象伝
《象》曰:天行健、君子以自強不息。潜龍勿用、陽在下也。見龍在田、德施普也。終日乾乾、反復道也。或躍在淵、進無咎也。飛龍在天、大人造也。亢龍有悔、盈不可久也。用九、天德不可為首也。
解説: 天道の運行は剛健で止まず、永遠に止まることはない。君子はこの卦象を観察し、天道に倣い、常に自強不息、積極進取の態度を保つべきである。初九「潜龍勿用」は、陽爻が最も下位にあり、力がまだ現れていないため、軽挙妄動すべきでないからである。九二「見龍在田」は、君子の徳行が次第に現れ、広く他人に施し、四方に恵みを及ぼすことができるからである。九三「終日乾乾」は、君子が常に天道を堅守し、順境逆境にかかわらず、剛健なる正道を繰り返し実践し、勤勉で怠らないからである。九四「或躍在淵」は、この時は進退に度があり、たとえ積極的に進取しても災いを招かないからである。九五「飛龍在天」は、大人(徳と地位ある者)が勢いに乗じて、一つの事業を開創し、自らの抱負を成就することができるからである。上九「亢龍有悔」は、物事が極致に達すれば衰退に向かい、過度に満ち溢れ、独りよがりの状態は長く維持できないからである。用九「見群龍無首、吉」は、天道の徳行は本来独断専行には適さず、首領無くして和し、それぞれがその地位に安んじることが最も和諧の境地だからである。
文言伝
文言曰:元者、善之長也;亨者、嘉之会也;利者、義之和也;貞者、事之幹也。君子体仁、足以長人;嘉会、足以合礼;利物、足以和義;貞固、足以幹事。君子行此四德者、故曰:乾、元亨利貞。
初九曰「潜龍勿用」、何謂也?子曰:「龍徳而隠者也。不易乎世、不成乎名;遯世無悶、不見是而無悶;楽則行之、憂則違之;確乎其不可抜、潜龍也。」
九五曰「飛龍在天、利見大人」、何謂也?子曰:「同声相応、同气相求;水流湿、火就燥;雲従龍、風従虎。聖人作而万物睹。本乎天者親上、本乎地者親下、則各従其類也。」
解説: 文言伝の中で言う。「元」は衆善の始めであり、「亨」は美好なる事物の集まりであり、「利」は道義の和諧であり、「貞」は物事を行う根本である。君子が仁徳を実践すれば、他人を導くに足りる。美好なる事物を集めれば、礼儀に合うに足りる。万物に恵みを施せば、道義に合うに足りる。正道を堅守し、確固たる意志を持てば、事業を成就するに足りる。君子がこの四つの徳行を実践できるので、乾卦は「元亨利貞」の四徳を内包すると言うのである。
ある人が尋ねた。初九に「潜龍勿用」とあるのは、どういう意味か。孔子は答えて言った。「これは龍のような品德を持ちながら、隠遁を選ぶ者のことである。彼らは世俗に従って自らを変えず、名声や功業を追求しない。世に隠れても苦悶せず、世の人に認められなくても憂えない。心中に喜びがあれば行い、憂いがあれば避ける。意志が堅固で動かしがたい、これが『潜龍』の状態である。」
ある人が尋ねた。九五に「飛龍在天、利見大人」とあるのは、どういう意味か。孔子は答えて言った。「同類の声は互いに呼応し、同類の気は互いに求める。水は湿ったところに流れ、火は乾燥したところに向かう。雲は龍に従って現れ、風は虎に伴って起こる。聖人が現れれば、万物は皆自らの本性を現す。天に由来する事物は高いところを親しみ、地に由来する事物は低いところを親しむ。万物はそれぞれ自らの同類に依り従うのである。」
よくある質問
乾卦は吉と見るべきか、凶と見るべきか?
答: 乾卦は最上の吉卦であり、全体として吉を主とします。核心は「元亨利貞」であり、開創、進取、尊貴を主とします。ただし、天道の法則に従う必要があります。上九「亢龍有悔」は、剛極まれば必ず反転することを示し、過度に剛猛で進退を知らなければ凶を主とします。正道を守り、止まるべき時を知れば吉です。
乾卦の用九「見群龍無首、吉」とはどういう意味ですか?
答: 用九は乾卦特有の爻辞で、六爻すべてが陽爻である時の全体の状態を指します。「群龍無首」は指導者がいないという意味ではなく、天道循環、剛柔相済であり、指導者が独断せず、万物がそれぞれの場所を得て、尊卑のバランスを失わず、自然和諧の至高の境地に達することを指します。ゆえに吉なのです。
乾卦はどの五行に対応しますか?どのような人に適していますか?
答: 乾卦の五行は陽金に属し、剛健、尊貴、開創を象徴します。指導力があり、進取心が強く、正道を守る人に適しています。特に起業家、管理者、権力者に適しており、命局の中で金が旺じる人は本卦の助力を得られます。
事業について乾卦を占いに出た場合、どのような示唆がありますか?
答: 事業について乾卦を占いに出た場合、開創が順調で、見通しが広いことを主とします。「天行健、君子以自強不息」に倣い、持続的に精進し、正道を守る必要があります。初九の潜龍勿用は、蓄積に適しています。九五の飛龍在天は、大志を抱くのに適しています。上九の亢龍有悔を忌み、独りよがりになったり、焦って成果を求めたりしてはなりません。
乾卦と坤卦の違いは何ですか?
答: 乾卦は純陽の卦であり、天、剛健、開創を象徴し、「自強不息」を主とします。君主、父、指導者に対応し、能動的な進取に重点を置いています。坤卦は純陰の卦であり、地、柔順、受容を象徴し、「厚徳載物」を主とします。臣下、母、包容者に対応し、受動的な受容に重点を置いています。両者は相補い、剛柔相済します。