第10卦 天沢履(てんたくり)
天沢履(てんたくり)は、『易経』六十四卦の第十卦であり、上卦が乾(けん)、下卦が兌(だ)で構成され、雑卦に属します。礼儀を実践し、慎重に行動することを象徴し、礼に従って行動し、一歩一歩慎重に進む様を表しています。核心的な要義は 「上天下沢、君子以て上下を辨じ、民志を定む」 です。礼を守り、慎重に行動し、実践し、本分を守ることを主とし、中吉の卦とされます。世の中で処し行動するには、礼儀と規則に従い、慎重に前進する必要があるという道理を明らかにしています。
卦象と卦辞
卦象
卦辞
履:虎の尾を履み、人を咥えず、亨。
訳: 履卦は、行動を実践することを象徴し、虎の尾を踏んでも、虎は人を噛まず、物事が順調に運ぶことを意味します。行動する際、危険な状況に置かれていても、礼儀と規則に従い、慎重に振る舞えば、危険を避け、すべてが順調に進むという寓意があります。
爻辞
- 初九: 素履にして往く、咎無し。
素履にして往く、咎無し。
訳: 飾り気のない素朴な靴を履いて前進し、本分を守り、礼に従って行動すれば、災いはありません。行動の初めは、素朴な本来の心を持ち、正道を守り、無謀な行動や越権行為をしなければ、自然と咎はないという寓意です。
- 九二: 履道坦坦たり、幽人貞吉。
履道坦坦たり、幽人貞吉。
訳: 正道を歩む道は平坦で広々としており、静かに隠居する人が正道を守れば吉祥を得られます。行動する際、中正を守り、心を平静に保ち、名利を求めず、控えめに行動すれば、安泰で順調に進むという寓意です。
- 六三: 眇(すがめ)にして視る能く、跛(あしなえ)にして履む能く、虎の尾を履み、人を咥う、凶。武人、大君の為にす。
眇にして視る能く、跛にして履む能く、虎の尾を履み、人を咥う、凶。武人、大君の為にす。
訳: 目が不自由なのに無理に見ようとし、足が不自由なのに無理に歩こうとし、虎の尾を踏んで虎に噛まれ、大いに凶です。勇気はあるが知謀に欠ける武人のように、君主を補佐し、大権を握ろうと企てれば、必ず禍を招きます。才能も徳もなく、盲目的に動き、礼儀を守らないと、必ず凶危に陥るという警告です。
- 九四: 虎の尾を履み、愬愬(そくそく)として、終に吉。
虎の尾を履み、愬愬として、終に吉。
訳: 虎の尾の上を歩き、警戒と恐れの心を持ち、慎重に注意すれば、最終的には吉祥を得られます。危険な状況にいるとき、常に畏敬の念を持ち、細心の注意を払って行動すれば、災いを避け、危険を安全に変えられるという寓意です。
- 九五: 夬履(けつり)、貞れども厲し。
夬履、貞れども厲し。
訳: 行動が剛決果断で独断専行的であれば、たとえ正道を守っていても危険があります。高位にいる者は、あまりにも剛猛で独断的であってはならず、頑固で自分勝手な考えは容易に禍を招くため、剛と柔を調和させ、礼に従って行動する必要があるという警告です。
- 上九: 履を視て祥を考う、其の旋(めぐ)り元吉。
履を視て祥を考う、其の旋り元吉。
訳: 実践してきた過程を振り返り、吉凶禍福の兆しを考察し、得失を検討し、正道に立ち返れば、大いに吉祥です。行動が終わるとき、よく反省と総括を行い、誤りを修正し、礼儀を守れば、円満で吉祥な結果を得られるという寓意です。
核心象義
履卦は、上卦の乾が天であり剛を表し、下卦の兌が沢であり柔を表します。天が上にあり沢が下にあることで、尊卑の秩序があり、礼に従って行動することを象徴し、行動において礼を守り、慎重に世を渡り、正道を実践することを意味します。人事における言行の規範、職場での行動、本分を守ること、慎重な決断などに対応し、礼に従って行動し、一歩一歩確実に進み、驕りや焦りを戒めることを主とします。同時に、行動が無謀であってはならず、礼儀なく妄動すれば凶危を招くという警告でもあります。
履卦の六爻は、実践の道を中心に展開しています。初九は素朴な履で正道を守り、本分を守って前進します。九二は平坦な道で静を守り、隠居者が吉祥を得ます。六三は盲目的な妄動で凶危に触れます。九四は慎重に警戒し、最終的に吉祥を得ます。九五は剛決な行動で、正道を守り危険を防ぎます。上九は振り返って検討し、円満な吉祥を得ます。全体の核心は 礼を守り慎重に、実践に節度を持つ ことです。
万物類象
- 卦性: 雑卦、上剛下柔、天沢有序
- 五行: 金(乾は金に属し、兌も金に属す)
- 方位: 西北と西方
- 時序: 秋季、庚辛申酉の年月の時、五金の年月日時
- 人物: 君子、官吏、礼儀を重んじる士、武人、慎重な人、決断者
- 身体: 口、肺、呼吸器系、筋骨、主に口舌の言行、筋骨の病
- 動物: 虎、羊、鶏、飛鳥、温順な獣
- 器物: 礼器、楽器、刀剣、金属器具、口舌に関わる道具
- 場所: 朝廷、官府、郊外、西方の沢地、西北の高位
- 人事: 礼儀を守る、慎重に行動する、職責を実践する、決断して事を処理する、言行の規範
- 色彩: 白色、金色、玄色
- 五味: 辛、辣
- 数目: 一、二、九、七
古籍原文
卦辞爻辞
履: 履虎尾,不咥人,亨。
初九: 素履之往,无咎。
九二: 履道坦坦,幽人贞吉。
六三: 眇能视,跛能履,履虎尾,咥人,凶。武人为于大君。
九四: 履虎尾,愬愬,终吉。
九五: 夬履,贞厉。
上九: 视履考祥,其旋元吉。
彖传
《彖》曰:履,柔履刚也。悦而应乎乾,是以履虎尾,不咥人,亨。刚中正,履帝位而不疚,光明也。
訳: 履卦は、陰柔が陽剛に従って実践することを表します。下卦の兌は和悦であり、上卦の乾は剛健です。和悦が剛健に順応するため、虎の尾を踏んでも、虎は人を噛まず、物事が順調に運びます。九五の陽爻が上卦の中位に位置し、中正を保ち、帝位にありながら心に疚しいところがなく、その徳行は光明正大であります。
象传
《象》曰:上天下泽,履。君子以辨上下,定民志。素履之往,独行愿也。履道坦坦,幽人贞吉,中不自乱也。眇能视,不足以有明也。跛能履,不足以与行也。咥人之凶,位不当也。武人为于大君,志刚也。愬愬终吉,志行也。夬履贞厉,位正当也。视履考祥,其旋元吉,庆大也。
訳: 天が上にあり、沢水が下にあるという尊卑の秩序は、履卦の象です。君子はこの象に倣い、上下尊卑の秩序を明らかにし、民衆の心を安定させます。
素朴な履を履いて前進するのは、自身の本来の志願を守り、流れに従わないことです。
実践の道が平坦で広々としていること、隠居者が正道を守って吉祥を得るのは、内心が中正を守り、自ら乱さないからです。
目が不自由で物を見るのは、物事の本質を見通すには不十分です。足が不自由で歩くのは、順調に前進することはできません。
虎に噛まれる凶は、居る位置が適切でなく、行動が越権的であるからです。
武人が大君を補佐しようと企てるのは、心志が剛猛で、礼儀なく妄動するからです。
警戒の心を持って最終的に吉祥を得るのは、慎重に行動し、志が遂行されるからです。
剛決に行動し、正道を守っても危険なのは、尊い地位にあり、剛猛すぎて折れやすいからです。
過程を振り返り吉凶を考察し、正道に立ち返って大吉を得るのは、始めから終わりまで善くし、福慶が盛大であるからです。
よくある質問
履卦は主に吉か凶か?
答: 履卦は中吉の卦です。礼儀と規則に従い、慎重に行動すれば吉ですが、才能もないのに妄動し、頑固で自分勝手、礼儀を守らなければ凶となります。
履卦の「履虎尾,不咥人」とはどういう意味ですか?
答: 危険な状況に置かれ、危機に直面しても、行動が慎重で、礼儀を守り、法則に順応すれば、危険を解消し、災いによって傷つけられることがないという意味です。核心は慎重な行動による災いの回避です。
履卦はどの五行に対応しますか?どのような場面に適していますか?
答: 履卦の五行は金に属します。職場での行動、職責を守る、礼儀的な社交、慎重な決断、言行の規範化などの実践的な場面に適しており、無謀な妄動、頑固な独断、越権的な行動には適しません。
履卦を占って事業について尋ねた場合、どのような啓示がありますか?
答: 履卦を占って事業について尋ねた場合、慎重に行動し、本分を守る必要があることを主とします。九四の警戒と慎重さが最も吉であり、六三の盲目的な妄動は凶です。九五は頑固な独断を忌み、上九は振り返って総括し、着実に仕上げるのが良いでしょう。
履卦と小畜卦の違いは何ですか?
答: 小畜卦は小さな蓄えがあり、養いを待つことを主とし、蓄積と力の温存に重点を置きます。履卦は礼に従って実践し、慎重に行動することを主とし、行動の規範に重点を置きます。一つは蓄え、一つは行動であり、蓄えは行動の基礎であり、行動は蓄えの活用です。両者は互いに補完し合う関係にあります。