第18卦 山風蠱(やまかぜこ)
sidebar_position: 18 hide_table_of_contents: false hide_title: true slug: /iching/18-shan-feng-gu sidebar_label: 山風蠱(やまかぜこ) title: 第18卦 山風蠱(やまかぜこ)詳解 description: 山風蠱は「易経」六十四卦の第18卦です。本記事では山風蠱の卦象(かしょう)、卦辞(かじ)、爻辞(こうじ)、核心となる象義、万物の類象、およびよくあるご質問を整理いたします。 keywords:
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第18卦 山風蠱(やまかぜこ)
山風蠱(やまかぜこ)は、「易経」六十四卦の第十八卦であり、上卦が艮(ごん・山)、下卦が巽(そん・風)であり、雑卦(ざっか)に属します。弊害の発生、混乱、それを救済し治める様、すなわち「山下(さんか)に風あり、風が山に落ちて止まる、物が久しければ蠱(こ)が生ずる」といった事象を象徴します。核心となる要義は 「山下に風有り、蠱なり。君子以て民を振い徳を育す」 であり、弊害を治めて混乱を収め、古いものを改めて新しいものを興し、衰退を振るい起こすことに主眼があります。中吉卦とされ、物事が極まれば必ず反転し、乱れ極まれば治まるという、弊害を救い衰退を助ける法則を明らかにしています。混乱を治めるには剛柔を併せ使い、徳をもって人を教化し、順序を追って進めることが重要であると説いています。
卦象(かしょう)と卦辞(かじ)
卦象(かしょう)
卦辞(かじ)
蠱(こ):元(もと)より亨(とお)る。大川(たいせん)を渉(わた)るに利(よろ)し。甲(かぶと)の三日先(みっかさき)なり。甲(かぶと)の三日後(みっかご)なり。
訳解: 蠱(こ)は弊害を救い混乱を治めることを象徴し、大いに物事が順調に進行し、大河(大きな困難)を渡り、大事を成し遂げるのに有利です。事を行う三日前にしっかりと準備をし、事を行った三日後に仕上げを行う、ということは、混乱を治めるには周到な計画、タイミングの把握、始めから終わりまでを貫くことが必要であることを示唆しています。
爻辞(こうじ)
- 初六(しょりく): 父(ちち)の蠱(こ)を幹(かん)するに、子(こ)有(あ)り、考(かう)咎(とが)無(な)し、厲(れい)にして終(つい)に吉(きつ)なり。
父の蠱を幹するに、子有り、考咎無し、厲にして終に吉なり。 訳解: 父が残した弊害を正す、こうした子供がいれば亡き父には災いはなく、危険があるものの最終的には吉となる。積弊を初めて治めようとする時、勇気を持って責任を負い過失を正すこと、困難に遭遇しても良い結果を得ることを寓意しています。
- 九二(きゅうじ): 母(はは)の蠱(こ)を幹(かん)するは、貞(てい)すべからず。
母の蠱を幹するは、貞すべからず。 訳解: 母が残した弊害を治める際には、あまりにも固執して剛直であってはならない。陰柔の弊害を治めるには温和で臨機応変、剛柔を兼ね備えることが必要で、強引に真っ直ぐ進んではならないことを寓意しています。
- 九三(きゅうさん): 父(ちち)の蠱(こ)を幹(かん)するに、小(すこ)しく悔(く)いる有(あ)りと雖(いえど)も、大(おお)きなる咎(とが)無(な)し。
父の蠱を幹するに、小しく悔いる有りと雖も、大きなる咎無し。 訳解: 父の過失を正す際に、わずかな悔恨はあっても、大きな災いは無い。弊害を治める過程で行動が強硬すぎ、わずかに偏差が生じても、正しい道を守れば重大な過ちには至らないことを寓意しています。
- 六四(ろくし): 父(ちち)の蠱(こ)を裕(ゆた)にするは、往(ゆ)きて吝(りん)を見(み)る。
父の蠱を裕にするは、往きて吝を見る。 訳解: 父が残した弊害を寛容に見逃し甘やかすと、進んで行く先で悔いと不足を見ることになる。積弊に対してひたすら寛容で甘やかすだけでは、弊害と混乱が激しくなるだけで、ついには窮地に陥る、と警告しています。
- 六五(ろくご): 父(ちち)の蠱(こ)を幹(かん)するに、誉(ほま)れを以(も)ってす。
父の蠱を幹するに、誉れを以ってす。 訳解: 父の弊乱を正すことによって、称賛を得る。柔らかく中正の道を持って弊害を治め、徳で人を教化し、表面と根本の両方を正し、美名を勝ち取ることを寓意しています。
- 上九(じょうきゅう): 王侯(おうこう)に事(つか)えず、其(そ)の事(こと)を高尚(こうしょう)にす。
王侯に事えず、其の事を高尚にす。 訳解: 王侯や権力者に仕えることなく、自身の高潔な志を堅く守る。弊害乱れが極みに達し、世俗を超越して世を治めることから離れ、自身を磨きながら正しい道に従い曲げず、高い品格を保つことを寓意しています。
核心象義(かくしんしょうぎ)
蠱(こ)は上卦が艮(ごん・山・止(し))であり、下卦が巽(そん・風・入(い))です。風が山下に吹き入るが山に阻止され、風気が通じず長く積もって弊害が生じる様は、事物が慣例に従い古いまま守り、積もり積もって混乱を生み、弊害が数多く発生することを象徴します。これは人の事における弊政(へいせい)を整頓し、衰退を救済し、悪習を打破し、父の家業を継ぎ、過ちを正すといったことに対応します。弊害を救い乱れを収める、剛柔を併用する、徳で人を教化する、順序を追って進めることを主とし、同時に混乱を治めるには焦り急いではならないし、また姑息(こそく)に悪を養ってはならないこと、タイミングを把握し、表面と根本の両方を治めなければならないことを警告しています。
蠱卦の六爻(ろっこう)は、「蠱(弊害・混乱)を救い治める」ことを中心に展開します。
- 初六: 父の過ちを正し、危機を力強く挽回する。
- 九二: 母の弊害を救い治め、柔軟に応変する。
- 九三: 父の失敗を正し、わずかな悔いがあるも大過は無い。
- 六四: 弊害を甘やかし見逃し、最終的に悔いと不足を招く。
- 六五: 徳をもって蠱を治め、称賛を獲得する。
- 上九: 世俗を超越して、正しい道を守り高潔である。
全体の核心は、 弊害を救い衰退を助け、古いものを改め新しいものを興し、民を奮い立たせ徳を育てる ことにあります。
万物類象(ばんぶつるいしょう)
- 卦の性質: 雑卦、上は止(とど)まり下は入(い)る。山下に風有り、積弊(せきへい)して蠱を生ず。
- 五行: 土・木(艮は土に属し、巽は木に属する)
- 方位: 東北と東南
- 時季の順序: 春から夏への変わり目、風気が鬱積(うっせき)し物が久しく存して弊害が生じる時期
- 人物: 乱れを治める臣下、匡正(きょうせい)する士人(しじん)、継承者、弊害を除く人、隠士(いんし)
- 身体: 肝・胆、脾・胃、筋(すじ)と血管、肌と膚(はだ)、停滞や鬱積による詰まり・血行不良、風気の不通を主とする
- 動物: 蟲(むし)、毒蟲、山の鳥、飛ぶ鳥
- 器物(うつわもの): 腐朽(ふきゅう)した器、修理の道具、礼楽の重器(じゅうき、重要な器)
- 場所: 山林、旧宅(きゅうたく)、弊害と乱れのある場所、積弊の地
- 人間関係と事象: 弊政の整頓、衰退の救済、悪習の打破・除去、家業の継承、過ちの匡正(ただしす)
- 色彩: 黄色、青色(あおいろ/せいしょく)、褐色(かっしょく/かちいろ)
- 五つの味: 甘(あま)味、酸(す)味
- 数字: 五、四、八
古籍原文(ここてきげんぶん)
卦辞爻辞(かじこうじ)
山風蠱: 蠱:元亨。利渉大川。先甲三日。後甲三日。 初六: 幹父之蠱。有子考。無咎。厲終吉。 九二: 幹母之蠱。不可貞。 九三: 幹父之蠱。小有悔。無大咎。 六四: 裕父之蠱。往見吝。 六五: 幹父之蠱。用誉。 上九: 不事王侯。高尚其事。
彖傳(たんでん)
《彖》曰:蠱。剛上而柔下。巽而止。蠱。蠱元亨。而天下治也。利渉大川。往有事也。先甲三日。後甲三日。終則有始。天行也。
訳解: 蠱卦は、陽剛が上に居り陰柔が下に処る、謙遜和順でありながらかつ静止と節制ができる、それゆえ積弊が生じて蠱となるのです。蠱卦が大いに亨通なのは、混乱を治めることによって天下が安定させられるからです。大河を渡るのに有利なのは、弊乱を整えるために前往(ぜんこう)するからです。事の前の三日に準備をし、事の後の三日に仕上げを行う。終わればまた始まりがある。これは天の道が運行する法則です。
象傳(しょうでん)
《象》曰:山下有風。蠱。君子以振民育德。
訳解: 山下(さんか)に風が吹き入って来る。風気が鬱積して弊害が生ずる。これが蠱卦の象です。君子はこの象に倣い、民心を振い立たせて徳を育て、これをもって弊害を救済して乱れを収め、百姓(ひゃくせい)を教化します。
《象》曰:
- 幹父之蠱。意承考也。
- 幹母之蠱。得中道也。
- 幹父之蠱。終無咎也。
- 裕父之蠱。往未得也。
- 幹父用誉。承以德也。
- 不事王侯。志可則也。
訳解:
- 父の蠱(弊害)を匡正する、その本意は先父の志を継ぐことにあります。
- 母の蠱を匡正するのは、中庸(ちゅうよう)の道に合った振る舞いによるからです。
- 父の過失を匡正する、最終的には災禍(さいか)はありません。
- 父の弊害を裕(ゆる)す、進んで行っても得る所はありません。
- 父の過ちを治めることを通して称賛を用いる、徳によって先人の事業を継承することです。
- 王侯に仕えない、その志は世の人が範とすべきものです。
よくあるご質問
蠱(こ)は吉が出る卦ですか、それとも凶が出る卦ですか?
答: 蠱卦は中吉(ちゅうきつ)卦とされます。勇気を持って弊害を救い、古いものを改めて新しいものを興す場合は吉となり、積弊を見逃し慣例に従って古いまま守る場合は凶となります。乱れ極まれば必ず治まるので、最終的には亨通(こうつう)に帰することができるのです。
蠱卦における「先甲三日、後甲三日」とはどういう意味ですか?
答: 甲(きのえ)の日が混乱を治め始める時であり、事の行われる前三日(みっか)に周到に準備をし、事の行われた後三日に完璧に仕上げを行うことを指します。弊害を整えるには周到な計画を持って事を進め、終わりのことを始めのように慎重に行うべきで、慌てて事を行ってはならないことを強調しています。
蠱卦はどのような場面に適していますか?
答: 弊政(へいせい)を整頓し、衰退を救済し、悪習を打破し、家業を継承し、過ちを正すといった「混乱を治め弊害を救う」場面に適しています。慣例に従って古いまま守ることや、弊害を見逃して甘やかすこと、盲目のまま過激に進むことは適しません。
蠱卦が占いに出た場合、仕事についてどのような示唆がありますか?
答: 仕事の中に積弊が潜んでいる可能性があり、古いものを改めて新しいものを興し、衰退を振るい起こす勇気が必要です。六爻(ろっこう)で言えば六五の「徳をもって蠱を治める」が最も吉で、初六の「危機を力強く挽回する」は最終的に吉、六四の「弊害を見逃し甘やかす」は悔いと不足を招きやすいでしょう。順序を追って進め、表面と根本の両方を治めるのが良いでしょう。
蠱卦と随(ずい)卦はどのような違いがありますか?
答: 随卦(ずいか)は「時(とき)に随(したが)い人に順(したが)う」、和やかに喜ばしいものとして動くことを主とし、主として新生の順調さを表します。一方、蠱卦(こか)は「積弊が生じて乱れる」、その弊害を救い乱れを治めることを主とし、古いものを改めて新しいものを興すことを表します。随は治世の始まりであり、蠱は乱れの極みです。一つは順であり、一つは治めであり、表裏の関係にあります。
よくある質問
蠱(こ)は吉が出る卦ですか、それとも凶が出る卦ですか?
蠱卦は中吉(ちゅうきつ)卦とされます。この卦の吉凶は、占う人がどのような行動を取るかに大きく依存します。勇気を持って既存の弊害を正し、古い慣習を改めて新しい風を興そうとする場合は吉となります。逆に、問題を見て見ぬふりをし、従来の惰性のままに留まろうとする場合は、混乱が深まって凶へと向かうでしょう。ただし、「乱れ極まれば必ず治まる」という自然の法則が示すように、誠意をもって事に当たれば、最終的には亨通(こうつう)へと向かうことができるのです。
蠱卦における「先甲三日、後甲三日」とはどういう意味ですか?
これは、混乱を収め秩序を立て直す際の「タイミング」と「持続的な努力」の重要性を説いています。「甲(きのえ)」は物事の始まりを表す十干の最初であり、改革や刷新を始める起点を意味します。「先甲三日」は、事を始める前の三日間にしっかりと準備と計画を整えることです。「後甲三日」は、事を始めた後の三日間、すなわち物事を最終的に完成させるまで弛まず手を抜かずに臨むことを意味します。弊害を整えるには、始めから終わりまで周到な心構えと一貫した実行力が求められるのです。
蠱卦はどのような場面に適していますか?
蠱卦は、長年の弊害や混乱を整理し、立て直す局面全般に示唆を与えます。具体的には、組織やチームの古いルール・悪習を打破する時、親から受け継いだ事業や問題を刷新する時、あるいは個人的な停滞や悪い習慣を断ち切ろうとする時などが当てはまります。つまり、「混乱を治め、弊害を救い、刷新する」 という核心に合致する場面に適しています。逆に、現状をただ維持したい場面や、表面だけを取り繕う安易な行動には不向きです。
蠱卦が占いに出た場合、仕事についてどのような示唆がありますか?
仕事面では、職場やプロジェクトに「積弊(せきへい)」、つまり積もり積もった問題や非効率な習慣が潜んでいる可能性があります。示唆は、爻(こう)の位置によっても異なりますが、総じて言えることは、勇気を持って問題に向き合い、改革を推し進める必要性です。特に六五爻の「徳をもって蠱を治め、称賛を得る」ように、強引さではなく、道理と徳を持って人を導くことが成功の鍵となります。一方、六四爻のように問題を甘やかして見逃すと、後で悔いを招く結果となるでしょう。
蠱卦と随(ずい)卦はどのような違いがありますか?
随卦(ずいか)は第17卦で、「時に随(したが)い人に順(したが)う」ことを表し、物事の順調な始まりや調和を象徴します。一方、蠱卦は「積弊が生じて乱れている」状態から、それを積極的に治め、立て直す過程を表します。両者は表裏の関係にあるとも言え、随が治世の平穏な始まりならば、蠱はその治世が長く続き乱れが生じた後の「再建」の局面です。一つの周期の中で、順(随)から乱(蠱)、そして再び治(泰など)へと流れていくのです。
蠱卦における「父の蠱」と「母の蠱」には意味の違いがありますか?
爻辞では「父の蠱を幹(おさ)める」場合と「母の蠱を幹める」場合で少し異なる戒めが示されています。「父の蠱」は、顕在化している明白な問題や、剛(強硬)な性質の弊害を象徴します。これに対して「母の蠱」は、目に見えにくい根深い習慣や、柔(陰柔)な性質の弊害を指します。それぞれの治め方には、前者には果敢な決断力が求められ、後者には臨機応変で柔軟な対応が求められるという違いがあります。
蠱卦の「山(艮)の下に風(巽)あり」という卦象は何を意味しますか?
この卦象は、蠱という「弊害・停滞」の本質を視覚的に表しています。風(巽)は物事を浸透させ、動かす性質を持ちますが、その上に大きな山(艮・止まる)がそびえ立っているため、風の動きや気流が山に遮られて滞留してしまいます。これが長く続くと、閉塞感や腐敗、すなわち「蠱」が生じるのです。現実では、組織の硬直したトップ(山)が柔軟な変化の風(現場の意見や新風)を受け入れず、内部に弊害が溜まっていく状態に例えられます。
最後の上九爻「王侯に事えず」は、何を教えていますか?
上九爻は、弊害が極まり、世の中が乱れている時に、無理に権力者に取り入って改革を押し進めようとするのではなく、自らの高潔な志(こころざし)を守る道を選ぶことを示しています。これは、「内部の刷新が難しい時には、一旦世俗の権力闘争から離れ、自らの徳性を磨き、時が来るのを待つ」という処世の知恵です。「高尚其の事(そのことを高尚にする)」とは、自身の理想や信念そのものを高みに置き、世俗の評価に左右されない生き方を重んじることを教えています。